コーヒー代「僕が支払うよ」 朝日新聞(特派員メモ・香港)
香港の抗議デモの取材はとにかく汗をかく。蒸し暑い天気と重装備が理由だ。
ノート型パソコンやカメラを持ち運び、催涙ガス対策のマスクやヘルメットを着用。衝突に巻き込まれないよう、報道陣だとわかる黄色いベストを重ね着する。
取材を終えると全身汗だく。のどを潤し、座れる場所で記事を書くこと、現場近くでカフェを探すのが習慣となった。
首に巻いたタオルで汗を拭きながら、ある店でコヒーを頼んだときのこと。客席奥から背の高い30前後の男性が進み出て「僕が払うよ」とクレジットカードを差し出した。
戸惑う私に「どこから来たの?日本人?香港のことしっかり伝えてくれ」とほほ笑んで席に戻っていく。そういえば入店時にふと目が合った。物々しい装備で私が記者だと察したのだろう。
この話に続きがある。直後に遅れて入ってきた同僚がもう一杯コーヒーを注文すると、店員の女性が「次は私の番。頑張って」と再びおごってくれたのだ。えっ!この街で起こっていることを世界に伝えてー。
コーヒーと共に香港の人々から思いを託された気がした。胸にじんと来て、責任の重さに身が引き締まった。