祝婚歌     吉野弘 詩集より

祝婚詩     吉野 弘 詩集より

 

二人で睦まじくいるためには 愚かでいるほうがいい

立派すぎないほうがいい 立派すぎることは 長持ちをしないことだと気付いているほうがいい

完璧をめざさないほうがいい 完璧なんて不自然なことだと うそぶいているほうがいい

二人どちらかが ふざけているほうがいい ずっこけているほうがいい

互いに非難することがあっても 非難できる資格が自分にあったかどうか あとで 疑わしくなるほうがいい

正しいことを言うときは 少しひかえめにするほうがいい

正しいことを言うときは 相手を傷つけやすいものだと 気付いているほうがよい

立派でありたいとか 正しくありたいとかいう 無理な緊張には

色目を使わず ゆったり ゆたかに 光を浴びているほうがいい

健康で風に吹かれながら 生きていることのなつかしさに ふと 胸が熱くなる

そんな日があってもいい

そして なぜ 胸が熱くなるのか 黙っていても 二人にわかるのであってほしい