題: 恋するくじら
くじらは独り言をいうようになった。 好きなひとができたからだと思う。
好きなひとができると、どうして独り言をいったり鏡をみたりしてしまうのだろう。
夢も、色つきの長いのを見るようになる。
「きっと、れんあい小説の読みすぎじゃないかと思うよ。・・いわゆるかぶれているのさ」
イルカに好きなひとのことを打ちあけたあと、くじらはそういって下をむいた。
「そうじゃないさ、くじら。 あんたは『イワユルカブレ』なんかじゃない。 あんたはほんものさ」
「そうか、ほんものか」
「そうともさ、ほんものさ」
くじらは「ワオ!」と云って、むこうのほうまで泳いでいき、でんぐり返りして戻ってきた。
「そのひとのそばにいくと、ヒレのぐ工合やなんか、面倒みてやりたくなるのさ」
「そうさ。そうにちがいない」
「そのひとと散歩すると、いつも危なくないかどうか、遠くを見はってあげるのさ」
「きっと、そうだろうともさ」
「ほんものかね」
「ほんものさ」
また、くじらは「ワオ!」と云って、むこうのほうまで泳いでいき、でんぐり返して戻ってきた。
「ぼく、そのひとをお嫁さんにしようかしらと思う」
「それはいいね、くじら」
「そうしたら、ぼくはそのひとに、いつでも好きなときに、きれいだね、といってあげる」
「ぼくも、そのひとに、あなたはぼくの親友のお嫁さんですね、といってあげられる」
「そのひとは、いつでも好きなときに、ぼくのそばで笑ったり昼寝したりするのさ」
「笑ったり昼寝したりするのは、とてもいいことだよ」
「じゃ、イルカ。ぼく、これからそのひとのところへ行って、お嫁さんになって、と云ってくる」
「じゃ、くじら。ぼく、こらから、くじらがお嫁さんをもらいます、という案内状を書いてくる」
くじらとイルカは握手をして、大急ぎでむこうとこっちへ泳いでいった。
題: わたし
きょうは みょうに気持ちが しずかだ
きのうは あんなに はしゃいでいたのに
きのうの わたしと
きょうの わたしと
ちがうひとみたい
そういえば いつかはプンプン怒ってたし
わんわん泣いた日も あったけ・・
わたしの中に 何人の「わたし」がいるんだろう
あしたは どんな「わたし」に 会うんだろう