一遍の詩がぼくにくれたやさしい時間  水内 喜久雄 編著

h22324-1.jpg題:  地上で     草野 信子

 

帰ってきた日の夜

男は二度ベットから転がりおちた

それまでの八日間

無重力の中で眠っていたから

 

宇宙飛行士の妻が語った

その話が好きだ

宇宙から見る地球に国境線はなかったと

男が語った話よりも

 

地上に生み落とされた

小さないきものは

重力に繋がれて だからこそ

やさしく交わることができることを

そっと思い出させてくれた

 

雨の音が聞こえる

遠い夜の林でブナの実が落下している

そしていま

わたしのうえに重なるひとの

やわらかな重量

 

宇宙飛行士の妻が語った話が好きだ

闇に向かって

わたしに目を見開かせるのは

(人間には国境がない)

美しい観念ではなく

わたしの胸を受けとめる胸

その奥の鼓動だ