題: せみ 木村 信子薯
せみは
たった一週間の命のために
永い年月、土の中で暮らさなければはらない
というけれど
土の中の年月こそ
せみの本当の命のよろこびかもしれない
地上のよろこび、なんて思うのは
人間のかってな想像だ
じぶんの羽を
得たいの知れないものと、とまどっているかもしれない
土の中の生活が
あんまり長かったので
高所恐怖症なのかもしれない
あんなにはげしく鳴いているのは
題: 夕焼け 工藤 直子
あしたは かならず
晴れるに ちがいないなあ
あしたも わたしは
たしかに 生きるだろうなあ
あしたこそ
なにかを みるかなあ
きっと そうであり
そうに ちがいなく
そうと 思いたい
・・・・・・・・・・
そんなふうに眺められる
夕焼けが あった
題: ダイアモンド 寺山 修司
木という字を一つ書きました
一本じゃかわいそうだから
と思ってもう一本ならべると
林という字になりました
淋しいという字をじっと見ていると
二本の木が
なぜ涙ぐんでいるのか
よくわかる
ほんとうに愛しはじめたときにだけ
淋しさが訪れるのです